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アンドロゲン受容体GGC繰り返し多型と前立腺肥大症および前立腺癌リスク
2012年11月29日
【 目的 】
アンドロゲン受容体(AR)のGGC繰り返し多型はアンドロゲン反応性遺伝子の転写活性に影響し、前立腺肥大症(BPH)および前立腺癌(PCa)のリスクを上げる。そこで、南ブラジルの男性集団におけるGGC繰り返し長、テストステロン・レベルおよびPCaおよびBPH発現リスクの間の関連性を検討した。【 方法 】
PCa患者130例、BPH患者126例およびコントロール患者88例について検討した。DNAは白血球より抽出し、分画分析により解析した。ハザード比(HR)を測定した。【 結果 】
- GGC平均長は3群間で差異がなかった。
- GGC > 19の集団のPCa発現リスクはGGC ≤ 19群と比較したとき3.300 倍(95 %CI 1.385-7.874)高かった (p = 0.007)。
- 総テストステロン<4 ng/mL群のPCaおよびBPH発現リスクは2.799倍 (95 % CI 1.362-5.754). (p = 0.005) および2.786倍 (95 % CI 1.470-5.280) (p = 0.002)高かった。
- GGC > 19群の総テストステロンはGGC ≤ 19群より有意に低かった。
【 結論 】
アンドロゲン受容体のGGC繰り返し長の上昇はPCaおよびBPHリスクの上昇と関連し、低テストステロンもこれら疾患の発現リスクの上昇を示唆した。【 原著 】
Mol Biol Rep. 2012 Nov 27.
Androgen receptor GGC polymorphism and testosterone levels associated with high risk of prostate cancer and benign prostatic hyperplasia.
Biolchi V, Neto BS, Pianta DB, Koff WJ, Berger M, Brum IS.
Department of Physiology, Universidade Federal do Rio Grande do Sul, Porto Alegre/RS, Brazil【 弊社コメント 】
疾病の有無の3群間で比較するとGGC繰り返し長に差がないが、GGC繰り返し長で分けてみるとPCaおよびBPHリスクに差があるという、一見しては理解しずらいところもあります。 テストステロン感受性の面からみれば理解できます。 これまでCGA多型について多数報告がありましたがGGC繰り返し長という切り口は初めてです。(野)「低過ぎるテストステロン状態」が前立腺肥大症や前立腺癌のリスクを高める、という機序の一端が示されました。(福)
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アンドロゲン補充療法は軽度のBPH(前立腺肥大症)を合併する性腺機能低下男性の下部尿路症状を改善する
2011年01月12日
【 目 的 】
前立腺肥大症(BPH)を合併する性腺機能低下男性の下部尿路症状(LUTS)に対するアンドロゲン補充療法(ART)の効果に関する無作為コンロール試験を行った。【 方 法 】
性腺機能低下症およびBPHを合併する52例をエナント酸テストステロン250mg/4週、筋注によるART群または未治療のコントロール群に無作為に割り付けた。
開始前および治療12カ月後のIPSS(国際前立腺症状スコア)、尿流量測定データ、排尿後の残尿量(PVR)および全身の筋肉量を比較した。【 結 果 】
- 解析対象となったのはART群23例、コントロール群23例の計46例である。
- 12カ月後、IPSSはART群では開始時に比して有意に低下した( 15.7 ± 8.7 vs. 12.5 ± 9.5; p < 0.05 )が、コントロール群では有意な変化はみられなかった。
- ART群は最大尿流率および排尿量の有意な改善を示したが、コントロール群では有意な改善は見られなかった。
- PVRは両群で有意な変化がみられなかった。
- ART群は平均筋肉量の有意な増加を示したが(p < 0.05)、コントロール群では有意な変化が見られなかった。
【 結 論 】
アンドロゲン補充療法は軽度の前立腺肥大症を合併する性腺機能低下男性の下部尿路症状を改善した。【 原 著 】
Aging Male. 2010 Dec 21.
Androgen replacement therapy
contributes to improving lower urinary tract symptoms in patients with
hypogonadism and benign prostate hypertrophy: a randomised controlled
study.
Shigehara K, Sugimoto K, Konaka H, Iijima M, Fukushima M, Maeda Y,
Mizokami A, Koh E, Origasa H, Iwamoto T, Namiki M.
Department of
Integrative Cancer Therapy and Urology, Kanazawa University Graduate School
of Medical Science, Kanazawa, Ishikawa, Japan.【 弊社注釈 】 (リンク先: 参照資料)
「下部尿路症状 (Lower Urinary Tract Symptoms: LUTS)」
下部尿路機能障害による排尿障害からの排尿症状と蓄尿障害からの蓄尿症状を併せたものです。下記の「排尿障害」と「蓄尿障害」は、下部尿路症状(LUTS)の一部分となります。
「排尿障害」
排尿症状は尿をスムースに出せない症状で、排尿困難・排尿開始遅延・腹圧性排尿など。「蓄尿障害」
蓄尿症状は、尿をうまく溜められない症状で、頻尿・尿意切迫感・尿失禁など。【 弊社コメント 】
一般に、前立腺肥大症に対して男性ホルモンは症状を促進させると言われていることから、特に重症の前立腺肥大症の男性には男性ホルモンの補充をお勧めしておりませんが、軽症の人であれば、本報によると1年のテストステロン補充で有意に下部尿路症状が改善したことから、安心して男性ホルモンの補充が出来るものと期待されます。
なお、グローミンによる男性ホルモンの補充でも、下部尿路症状を改善することが報告されています。
男性ホルモンの分泌不足が排尿や蓄尿をコントロールする筋肉量の低下を招き、下部尿路症状を起こしていたとすれば、テストステロンの補充でこれらの筋肉を取り戻すことにより、症状が改善したのかも知れません。 (福)続きを読む