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2024年05月10日
<目的>
テストステロン(T)補充療法(TRT)の心血管(CV)安全性については、いまだ相反するものがある。最近のデータでは、TRTに関連した心房細動(AF)リスクの増加が示唆されている。そこで、プラセボ対照ランダム化試験(RCT)から得られたTRTに関連するCVリスクを系統的にレビューし、メタ解析を行った。<方法>
Medline、Embase、Cochraneによる広範な検索を行った。TRTによるCV安全性に関するデータを報告したすべてのプラセボ対照RCTを検討した。心房細動に対するTの関与を詳細に解析するために、内因性血清Tレベルと心房細動発生率との関係を調査した集団ベースの研究も対象とし、解析した。<結果>
・3,615の研究のうち、106の研究を検討した。割付症例数はTRT群8,126人およびプラセボ群7,310人であった。・主要CV有害事象を検討した結果、TRTとプラセボの間に差は観察されなかった。
・非致死的不整脈および心房細動の発生率は、主要評価項目としてCV安全性を検討した1件の試験で増加したが、他のすべての試験を検討した場合に差異は確認されなかった(MH-OR 1.61[0.84;3.08]および1.44[0.46;4.46])。
・同様に、交絡因子を調整後では、内因性Tレベルと心房細動発生率との間に関係は観察されなかった。
<結論>
入手可能なデータでは、TRTは安全であり、CVリスクの増加とは関係がないことが確認されている。【原著】
Corona G, Rastrelli G, Sparano C, Carinci V, Casella G, Vignozzi L, Sforza A, Maggi M.
Endocrinology Unit, Azienda AUSL, Maggiore Hospital, Bologna, Italy.Expert Opin Drug Saf. 2024 May 6:1-15. doi:10.1080/14740338.2024.2337741.
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男性におけるテストステロン合成に対するアルコールの影響~レビュー
2023年03月07日
<目的>
アルコールの視床下部-下垂体-性腺軸の各レベルへの影響を調べることで、男性のテストステロン(T)合成に対するアルコールの影響を検討した。
<結果>
・低~中程度量のアルコールの急性摂取はテストステロン濃度を上昇する一方、大量のアルコール摂取は血清テストステロン濃度の低下と関連する。
・テストステロン濃度の上昇は、肝臓の解毒酵素の活性上昇に起因している。
・逆に、テストステロン減少に関わる主な作用機序は、視床下部-下垂体-副腎軸の活性亢進、炎症および酸化ストレスである。
・アルコールが過剰に、特に慢性的に摂取されると、男性のテストステロン産生に悪影響を及ぼす。
<専門家の意見>
テストステロンは男性の健康とウェルビーイングに対する重要な要素であるため、世界の多くの国々における現在のアルコール消費量には緊急の注意が必要である。アルコール摂取とテストステロンの関係を明らかにすることは、過度および慢性的なアルコール摂取によるテストステロン減少の影響を軽減するための戦略を特定する上で有用である。
【原著】
Expert Rev Endocrinol Metab. 2023 Mar 7:1-12.
The effects of alcohol on testosterone synthesis in men: a review.
Smith SJ, Lopresti AL, Fairchild TJ.
Clinical Research Australia, Perth, Australia.
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IVF施行女性における血清テストステロンレベルと卵巣反応性および累積生存児率
2023年03月01日
<目的>
体外受精(IVF)を受けた不妊症女性の卵巣反応および累積生存児率に及ぼす基礎血清テストステロン(T)値の影響を調査した。
<方法>
香港の大学付属生殖補助医療センターにおけるレトロスペクティブ研究である。2012年12月から2016年11月の間に同センターで最初のIVFサイクルを受けた不妊女性で、血清サンプルが保存され、累積生存児数に関する情報が入手可能な患者を解析対象とした。
<結果>
・ 計1122名の女性が解析の対象となり、基礎血清Tの中央値は0.53(25-75パーセンタイル:0.40-0.67)nmol/Lであった。
・ テストステロン値が高い女性ほど、ゴナドトロピン総投与量が少なく、刺激期間が短く、回収卵子数が多かった。
・ 累積生存児誕生率は、血清テストステロンの四分位群間で差はなかった。
・ 血清テストステロン値は、二値ロジスティック回帰において年齢および正常受精卵数で調整後、累積生存児誕生数の有意な独立した予測因子ではなかった。
・ 卵巣反応の高低と累積出生数の予測におけるROC曲線下面積は、すべて0.6以下であった。
<結論>
高い血清テストステロン値は卵巣反応の良好性に関連するが、体外受精を受けた不妊症女性の累積生児率には影響を及ぼさなかった。
【原著】
J Assist Reprod Genet. 2023 Mar 1
Wan RSF, Ko JKY, Yung SSF, Ng EHY, Li RHW.
Department of Obstetrics and Gynaecology, The University of Hong Kong, Pokfulam Road, Hong Kong, China.
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テストステロンは男性の女性に対する魅力性判断に早期に影響する
2022年04月23日
男性からみた女性の魅力性判断は、恋愛関係の開始と維持の欲求に影響を与える。テストステロンもまた、恋愛関係の開始と維持を予測する。このような効果は、ホルモンによる魅力性判断の調整によってもたらされると考えられるが、ホルモンがこれらの判断に及ぼす因果的(かつ状況依存的)効果については、これまで研究されていない。
プラセボ対照クロスオーバーデザインを用いた事前登録分析により、順序および関係依存的な効果が明らかになった:
独身男性(ヘテロセクシャル)は、テストステロンが先に(そしてプラセボが後に)投与された場合、女性をより魅力的と判断したが、プラセボが先に(そしてテストステロンが後に)投与された場合は、余り魅力的ではないと判断した。
しかし、女性の魅力(独立した観察者による評価)を組み込んだより複雑なモデルでは、テストステロンが女性の魅力を高める効果は男性の交際状況と女性の魅力に依存する事を示した。
パートナーを持つ男性(n = 53)では、魅力的な対象を軽視する(魅力が低いと評価する)傾向があり、テストステロンはこの効果に対抗して、これらの魅力的な対象の魅力を高めた。
独身男性(n = 53)では、逆に、テストステロンは、魅力の低い女性の魅力を増加させた。
このような効果の違いは、テストステロンが、パートナーがいるときはグレーディングを下げるよりも高め、独身のときは対象の選択性を低下させるという、関係性の状態によって異なるルートで男性の生殖能を促進するという、新たなメカニズムの可能性を明らかにしている。
さらに、このような作用は比較的早く(85(±5)分以内)発現し、非ゲノム的な作用機序の可能性が示唆された。
Geniole SN, Proietti V, Robinson BA, Bird BM, Watson NV, Bonin PL, Goldfarb B, Carré JM.
Department of Psychology, Nipissing University, 100 College Drive, North Bay, Ontario P1B8L7, Canada; Department of Basic Psychological Research and Research Methods, Faculty of Psychology, University of Vienna, Liebiggasse 5, 1160 Vienna, Austria; Department of Psychology, University of the Fraser Valley, 33844 King Road, Abbotsford, British Columbia V2S 7M8, Canada.
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腸内細菌叢(そう)と前立腺がん及びアンドロゲンとの関連性~レビュー
2022年04月06日
腸内細菌は、アルツハイマー病、関節リウマチ、大腸がんなど、いくつかの病気と関連している。また、腸内細菌は免疫機能の調節にも関連しており、その結果、免疫チェックポイント療法に対する反応が異なることが分かっている。腸内細菌叢(ちょうないさいきんそう)は、ライフスタイル、食事、性別、人種、遺伝的背景、国によって異なる。生活習慣、特に食事は、前立腺がんの発症と進行に重要な役割を果たしている。
最近の研究により、腸内細菌と前立腺がんの関係が明らかになっている。高脂肪食は腸内細菌の異常を引き起こし、短鎖脂肪酸やリン脂質などの腸内細菌代謝産物が全身循環に入り、結果として前立腺がんの増殖を促進する。
さらに、腸内細菌叢は、前立腺がんの進行に影響を与えるテストステロンの供給源として機能可能である。去勢抵抗性前立腺がんの男性では、アンドロゲン機能を持つ腸内細菌が増加している。高リスクの前立腺がんの男性は、特定の腸内細菌プロファイルを共有しており、腸内細菌叢のプロファイリングは、高リスクの前立腺がんの男性をスクリーニングするための有効なツールとなる可能性がある。
生活習慣の修正により、腸内細菌叢を改善することができる。さらに、プレバイオティックやプロバイオティックの介入により腸内細菌叢を変化させることで、前立腺がんの発生を予防または遅延させることができるかもしれない。「腸-前立腺軸」に関する研究の進展は、前立腺がんの予防、スクリーニング、治療に関する新たな戦略の発見につながるであろう。
Gut microbiome and prostate cancer.
Fujita K, Matsushita M, Banno E, De Velasco MA, Hatano K, Nonomura N, Uemura H.
Department of Urology, Kindai University Faculty of Medicine, Osakasayama, Japan.
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2022年04月01日
<目的>
勃起不全は死亡率と関連しているが、テストステロン低下と死亡率上昇との関連は依然として議論のあるところである。性機能障害と低テストステロンはしばしば共存するが、死亡率予測における性機能症状と低テストステロンの相対的重要性はわかっていない。そこで、ヨーロッパ人男性の大規模前向きコホートにおいて、性ホルモンおよび性機能症状と全死亡率との相互関係を調査した。
<方法>
European Male Ageing Study(EMAS)に参加した40~79歳の地域在住男性1,788名を対象に生存状態を調査した。性機能症状はEMAS-SFQを用いて評価した。性ホルモンは質量分析により測定した。Cox比例ハザードモデルを用いて、ホルモン、性機能症状、死亡率の関連を解析した。
<結果>
・約420人(25.3%)の男性が、平均12.6±3.1年の追跡期間中に死亡した。
・死亡群と生存群の間でTT(総テストステロン)値は同程度であったが、FT(フリーテストステロン)は死亡群で低かった。
・3つの性機能症状(勃起不全、早朝勃起減少、性欲低下)を持つ男性は、これらの症状を持たない男性と比較して死亡リスクが高かった(調整HRおよび95%CI:1.75(1.28-2.40、P = 0.001))。
・特に、勃起不全と早朝勃起低下は、死亡率の上昇と関連していた(それぞれ、HR 1.40(1.13-1.74, P = 0.002), 1.28(1.04-1.59, P = 0.023) が、性欲低下は関連していなかった(1.12(0.90-1.39, P = 0.312))。
・TT、FTまたはE2(エストラジオール)で調整しても、観察されたリスクには影響がなかった。
<結論>
性機能症状、特に勃起不全は、性ホルモンとは無関係に全死亡を予測し、健康状態悪化の早期警告サインとなりうる。
Antonio L, Wu FCW, Moors H, Matheï C, Huhtaniemi IT, Rastrelli G, Dejaeger M, O’Neill TW, Pye SR, Forti G, Maggi M, Casanueva FF, Slowikowska-Hilczer J, Punab M, Tournoy J, Vanderschueren D; EMAS Study Group.
Department of Chronic Diseases and Metabolism, KU Leuven, Laboratory of Clinical and Experimental Endocrinology, Leuven, Belgium.
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2020年10月01日
内分泌系は、ホメオスタシスの元に正または負の刺激に応答して動的に調節されている。テストステロン療法のモダリティは、投与間隔を延長し、持続的な「定常状態」のテストステロンレベルを維持するように進化してきた。長時間作用型テストステロン療法は、視床下部-下垂体-性腺軸を阻害し、下垂体のLHおよびFSH分泌を抑制し、LHおよびFSHの循環レベルおよび内因性テストステロン産生を低下する。
これらの内分泌変化は、精子形成の抑制および不妊、さらに他の副作用をもたらす。これらの長時間作用型テストステロン療法による精子産生への悪影響は、多くの適応外製品の使用につながっている。ゴナドトロピン産生を刺激し、その結果テストステロンレベルを上昇させるクエン酸クロミフェンが性腺機能低下症の治療および同時に生殖能力の維持のために用いられている。
半減期が短いテストステロンを数回投与する短時間作用型テストステロン療法は、視床下部-下垂体-性腺軸の阻害を最小限に抑え、精子形成の障害を軽減する。FDAが承認した、より短時間作用型のテストステロン療法製剤は、正常な生理機能をより厳密に反映する恒常性を維持し、性腺機能低下症の治療に大きな期待をもたらす。これは、長時間作用型製剤よりも利点を有している。
この治療法は、適応外治療製剤の使用ではなく、FDA承認のテストステロン補充を可能にし、治療対象患者の生殖能力を維持する。この仮説の支持には、短時間作用型テストステロンを用いたより長期間の研究が必要である。しかし、これまでに実施された研究は仮説を支持する傾向を示している。長時間作用型テストステロンが視床下部-下垂体-性腺の抑制をもたらし、生理学変化をもたらすという報告は多い。短時間作用型テストステロン療法は、テストステロン欠乏症の治療のパラダイムを変える可能性がある。
Short-Acting Testosterone: More Physiologic?
Affiliations- PMID: 33117287
- PMCID: PMC7561367
- DOI: 10.3389/fendo.2020.572465
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2020年08月12日
<目的>
限局性前立腺がんの根治的治療後のテストステロン補充療法(TRT)の安全性は確認されていない。そこで、限局性前立腺がんの治療後にTRTを受けた男性の生化学的再発および死亡リスクを分析した。
<方法>
全米退役軍人情報およびコンピューティングインフラストラクチャを使用してコホート分析を行た。 2001年から2015年に手術または放射線治療を受けた限局性前立腺がん患者69,984人を特定した。
治療後のTTの処方を時間依存共変量としてコードし、National Death Indexを使用して死因を特定した。生化学的再発は、手術後PSA> 0.2 ng / mLおよび放射線療法後の最低値+ 2 ng / mLと定義した。 累積発生率曲線、Fine-Gray競合リスク回帰、Cox回帰を使用して、再発および死亡率を分析した。
<結果>
・コホートには、手術患者28,651人および放射線患者41,333人が含まれ、うち469人(1.64%)および543人(1.31%)が、TRTを6.95年間(中央値)を受けた。
・TRT群を非TRT群を比較すると、生化学的再発、前立腺癌特異的死亡率、または手術後の全死亡率に差異は認められなかった [生化学的再発ハザード比(HR):1.07; 前立腺癌特異的死亡率HR:0.72(p = 0.43); および手術後の全死亡率HR:1.11(p = 0.43)]。または放射線療法後のHRはそれぞれHR:1.07; HR:1.02(p = 0.95); およびHR:1.02(p = 0.86)であった。
・制限として、TRTの期間とおよび血清T濃度に関する詳細なデータが欠如している。
<結論>
多民族全米コホートにおいて、TRTは、手術および放射線療法後の生化学的再発、あるいは前立腺癌特異的または全体的死亡率のリスクを増加しなかった。これらのデータは、限局性前立腺癌の根治的治療後のTRTが安全であることを示唆している。
Prostate Cancer Prostatic Dis. 2020 Jun 8.
Sarkar RR, Patel SH, Parsons JK, Deka R, Kumar A, Einck JP, Mundt AJ, Kader AK, Kane CJ, Riviere P, McKay R, Murphy JD, Rose BS Department of Radiation Medicine and Applied Sciences, University of California San Diego, La Jolla, CA, 92093, USA
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