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2020年08月05日
<目的>
性腺機能低下症および2型糖尿病(T2DM)合併男性におけるTRTが血糖コントロールおよびインスリン感受性を改善し、T2DMの寛解をもたらすかどうかを調査した。<方法>
総テストステロン(TT)≤12.1 nmol/L(350ng/dL)および性腺機能低下症状を示す計356人の男性を対象に、11年間追跡調査した。全例が標準的な糖尿病治療を受け、うち178人がそれに加えてTRT(テストステロン補充療法)を受けた(テストステロン undecanoate注射 1000 mgを最初に6週間の間隔、その後12週間毎に投与)。対照群は、TRTを受ける事を選択しなかった178人である。<結果>
・TRT群は、治療期間中、空腹時血糖、HbA1c、空腹時インスリンの有意な進展的および持続的な低下を示した。・対照群では、空腹時血糖、HbA1c、空腹時インスリンが上昇した。
・TRT群のうち、34.3%において糖尿病が寛解し、46.6%の患者が正常なグルコース調節に達した。
・TRT群のうち、83.1%がHbA1cの目標値47.5 mmol/mol(6.5%)に達し、90%がHbA1c 53.0 mmol/mol(7%)に達した。
・対照的に、対照群では、糖尿病の寛解またはグルコースまたはHbA1cレベルの低下は認められなかった。
・TRT群では、死亡、心筋梗塞、脳卒中、糖尿病性合併症は少なかった。
<結論>
T2DMおよび性腺機能低下症合併男性における長期TRTは、血糖コントロールおよびインスリン抵抗性を改善する。3分の1の患者が糖尿病の寛解に達した。TRTはT2DMおよび性腺機能低下症合併男性のための新しい追加療法である。【原著】
Diabetes Obes Metab. 2020 Jun 19.
Haider KS, Haider A, Saad F, Doros G, Hanefeld M, Dhindsa S, Dandona P, Traish A.
Private Urology Practice, Bremerhaven, Germany.続きを読む
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2019年06月18日
上芝 元 (東邦大学健康推進センター)
【目的】
テストステロンがインスリン抵抗性を改善するという報告や糖尿病症例において低テストステロン血症を伴う報告がある。 今回、中高年男性の肥満及び低テストステロン血症を伴う2型糖尿病症例において、テストステロン軟膏製剤による補充を行い、糖尿病状態の改善がみられた症例を2例経験したので報告する。
【方法】
症例1は54歳男性、推定罹病期間13年、BMI 31.3、8年前にインスリン導入となり、現在強化療法中である。 最近1年間の随時血糖150~259mg/dl、HbA1c 9.2~10.4%であり、血中遊離テストステロン1.9~3.2pg/mlと低値であった。
症例2は67歳男性、糖尿病の推定罹病期間18年、BMI 37.2、3年前にインスリン導入となり、現在経口薬とインスリン療法(超即効型と持効型)の併用治療中である。最近1年間の随時血糖190~277mg/dl、HbA1c 8.5~9.0%であり、血中遊離テストステロン2.9~3.8pg/mlと低値であった。 両症例ともに倫理委員会の承認を得て、インフォームドコンセントを行い、テストステロン軟膏(グローミン)を使用して、補充を行い、糖尿病状態の改善を試みた。
【結果】
両症例ともグローミン0.6g/日(0.3g×2回、腹部塗布)を6か月継続したところ、症例1では随時血糖109~173mg/dl、Hba1c 7.9~8.2%と糖尿病における血糖コントロールの改善がみられた。 また症例2でも随時血糖121~175mg/dl、HbA1c 7.2~7.8%と糖尿病における血糖コントロールの改善がみられた。 両症例とも血中PSAの変化や他の副次反応については、臨床上大きな問題となるものはみられなかった。
【結論】
テストステロン軟膏(グローミン)は、中高年男性で肥満及び低テストステロン血症を伴う2型糖尿病症例において、血糖コントロール改善に寄与する可能性が示唆された。 2症例から考えるとテストステロン低値、肥満、インスリン抵抗性状態を呈している2型糖尿病男性の治療にテストステロン軟膏が補助的手段になる可能性が示唆された。
2019(令和元)年6月14日(金)
第19回日本抗加齢医学会総会(於:パシフィコ横浜)
一般口演7 男性医療-1 (於:第6会場)
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最終糖化産物(AGE)による内皮細胞傷害に対するテストステロンの防御作用
2017年02月06日
<目的>
内皮細胞に対してテストステロン(以下、T)が防御的に作用するか否かは明らかではない。生理学的Tが内皮細胞に対する最終糖化産物(AGE)の有害作用を阻止できるか否かは確認されていない。
AGEによる内皮細胞の傷害に対するTの影響を検討した。<方法>
ヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)を in vitro にて培養し、各種濃度のT存在下あるいは非存在下にAGE処理を行った。各群の細胞生存率をMTS試験にて測定した。初期段階のアポトーシスをAnnexin V fluorescein isothiocyanate/propidium iodide二重染色によるフローサイトメトリーにより検出し、アポトーシス関連蛋白、B細胞リンパ腫-2 (Bcl 2), Bcl 2関連X蛋白 (Bax) およびカスパーゼ3をウェスタンブロット法により測定した。
培養液中の酸化ストレスおよび催炎症パラメータをELISA法により測定した。MTS試験
MTSをホルマザン色素(紫色)へ還元する酵素活性を測定する比色定量法である。この方法により培養細胞の生存率や増殖率を試験することが可能である。様々な試薬(医薬品候補など)や毒物の細胞毒性を評価することにも用いられる。<結果>
・MTS試験の結果、AGEはHUVECの増殖を有意に抑制したが、生理学的濃度のTはこの障害を緩和した。・生理学的濃度のTはカスパーゼ3およびBax/Bcl 2を介したAGEによるアポトーシスからHUBECを防御した。
・ HUVECのAGE処理は抗酸化パラメータを有意に減少し、マロンジアルデハイド(生体内で自然に発生する酸化ストレスの指標)およびTNFα(炎症の主な原因物質)を増加した。ヤーヌスキナーゼ2およびシグナル伝達性転写因子3(細胞の癌化に関与する転写因子) の活性化はAGE処理により有意に上昇した。しかし、生理学的Tの前処置はこれらの変化を軽減した。
<結論>
生理学的濃度のTはAGEによるHUVECの傷害を軽減すると思われる。<参考>
ヤーヌスキナーゼ
非受容体型チロシンキナーゼの1つである。一般にJAKやJakと略される。Jakは、機能や遺伝子の位置の違いからJak1、Jak2、Jak3、Tyk2に分けられ、それらの多くは細胞増殖、生存、発達そして分化に関与しており、特に免疫細胞や血球系細胞において重要な役割を果たしている。シグナル伝達はSTATを介して伝えられる。【原著】
Mol Med Rep. 2017 Jan 19. doi: 10.3892/mmr.2017.6130.
Protective effects of physiological testosterone on advanced glycation end product induced injury in human endothelial cells.
Xie Y, Yu D, Wu J, Li L【弊社コメント】
テストステロンを生理学的濃度に維持することが、内皮細胞の傷害を軽減し、ひいては糖尿病などにともなう障害を抑えることが期待できるのかも知れません。(福)続きを読む
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2017年02月01日
<目的>
最近の研究は糖尿病とPSAの間に負の関係を示している。そこで、糖尿病および正常(非糖尿病)モロッコ人男性におけるPSAレベルを調査した。<方法>
モロッコのパスツール研究所において470名の糖尿病男性および869名の非糖尿病男性を検査し、断面調査を行った。
HbA1cおよび空腹時血糖を高速液クロおよびドライケミストリーにより測定した。血清TおよびPSAは化学発光微粒子免疫法 により測定した。ドライケミストリー
特定の化学反応を起こす試薬が乾燥状態で用意されていて、そこに液体状の検体が添加されると、検体中の水分を溶媒として、試薬が含まれているマトリックスの中で反応が進行するもの。<結果>
・全体で、PSAレベルは糖尿病および非糖尿病男性間で有意な差異がなかった (1.31 ± 0.04ng/mL vs.1.36 ± 0.03ng/mL, p = 0.380)。・PSAレベルは両群ともに年齢とともに上昇したが、糖尿病男性では年齢に対する依存が非糖尿病男性より低かった (糖尿病男性;p =0.002、非糖尿病男性; p amplt; 0.0001)。
・層別分析の結果、50~59歳の男性ではPSAが糖尿病男性において非糖尿病男性より有意に低かった(p= 0.0004)。
・T(テストステロン)濃度には糖尿病の有無による差異が認められなかった (p= 0.904)。
<結論>
PSAレベルは糖尿病および非糖尿病男性において年齢依存的であったが、PSAレベルは年齢50~59歳の男性においてのみ糖尿病状態の影響を受けた。■ 原著
Curr Diabetes Rev. 2017 Jan 17.
Prostate-Specific Antigen levels in Moroccan diabetic males: A cross-sectional study.
Ainahi A, Barakat A, Wakrim L, Mohammadi H, Mdaghri NE, Ezzikouri S【弊社コメント】
中高年男性は加齢と共に前立腺(肥大・腫瘍)のリスクが高まることが知られていて、これらの目安にPSA(前立腺特異抗原、prostate-specific antigenの略)値が用いられます。 本報では50歳代の糖尿病男性は、糖尿病でない人よりもPSAが有意に低かったとのことです。 とはいえ、糖尿病なら前立腺肥大や前立腺腫瘍のリスクが低くなると安易に考えるべきでないと思います。(福)
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2014年07月15日
■ 目的
これまでの研究により2型糖尿病男性のテストステロン・レベルは低いことが明らかにされているが、1型糖尿病(T1DM)男性におけるデータは少ない。 T1DM男性の低テストステロンの発現率および素因について検討した。■ 方法
EDICにおける泌尿器症状に関する補助的研究であるUroEDIC (n=641)に参加したT1DMを有する男性を対象に断面調査を行った。EDIC:Epidemiology of Diabetes Interventions and Complications
EDIC year 17/18のサンプルを用い総テストステロンを質量分析法にて、SHBGをELISA法にて測定した。 フリー・テストステロンは計算により求めた。 低テストステロンは総テストステロン <300 mg/dLと定義した。 多変量回帰モデルを用いてテストステロン・レベルに対する年齢、BMI、糖尿病治療およびコントロールに関連した因子を比較した。
■ 結果
- 平均年齢は51歳、61例(9.5%)が T <300 mg/dLであった。
- テストステロンの低下は肥満(p<0.01), 高齢(p<0.01) およびSHBG (p<0.001)の低下と有意に関連していた。
- インスリンの用量はフリー・テストステロンと負に関連していた(p=0.02)。
- 高血圧はテストステロンの低下とぎりぎりに有意に関連していた (p=0.05)。
- 低テストステロンは腎症、末梢神経障害および自律神経障害パラメータと有意な関係が認められなかった。
■ 結論
EDICコホートのT1DM男性のアンドロゲン欠乏症発現率は高くなかった。 この集団における低テストステロンと関連したリスク因子は一般集団と同様であった。■ 原著
J Clin Endocrinol Metab. 2014 Jul 11:jc20141317.
PREVALENCE OF LOW TESTOSTERONE AND PREDISPOSING RISK FACTORS IN MEN WITH TYPE 1 DIABETES MELLITUS: FINDINGS FROM THE DCCT/EDIC.
Holt SK, Lopushnyan N, Hotaling J, Sarma AV, Dunn RL, Cleary PA, Braffett BH, Gatcomb P, Martin C, Herman WH, Wessells H; the Diabetes Control and Complications Trial /Epidemiology of Diabetes Interventions and Complications Research Group.続きを読む
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血清オステオカルシンは2型糖尿病男性のテストステロンと正相関する
2014年07月03日
■ 目的
2型糖尿病(T2DM)の男性患者における総オステオカルシン(OC)およびテストステロン・レベルの関係を検討した。■ 方法
98例の男性T2DM患者について断面調査を行った。 身体的パラメータを測定し、BMIを算出した。血糖、インスリン、HbA1c、テストステロン、OCおよび他の骨代謝マーカーを測定した。■ 結果
・ 血糖コントロールのレベルは低かった(HbA1c 9.19±2.53 および FPG 8.20±2.98)。・ ピアソン単相関において、OCはテストステロンと正相関し(r=0.236, P=0.019)、この関係は患者の全パラメータを考慮しても維持された(Model 1, 2 and 3)。
■ 結論
T2DM男性患者においてOCはテストステロンと正相関し、OCによりテストステロン・レベルを予測できる可能性がある。■ 原著
Int J Clin Exp Med. 2014 Apr 15;7(4):1145-9. eCollection 2014.
Total osteocalcin in serum predicts testosterone level in male type 2 diabetes mellitus.
Cui R, Su B, Sheng C, Cheng X, Yang P, Bu L, Li H, Wang J, Sheng H, Qu S続きを読む
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大量のエアロビクス運動は性機能、テストステロン、体重、ウェスト周囲径および脂肪量を著明に改善する
2013年05月13日
【 目 的 】
肥満男性の性機能、テストステロン、下部尿路症状(LUTS)、内皮機能およびQOLに対する少量(LV)および大量(HV)の中等度運動の影響を検討した。【 調査項目 】
開始時および24週後に以下の測定を行った。体重、ウェスト周囲径(WC)、体組成、IIEF-5、IPSSスコア、SF-36スコア、血清テストステロン、SHBG、血糖、インスリンおよび脂質、および内皮機能(反応性充血指数[RHI] using finger plethysmography)。反応性充血指数:RHI
血流依存性血管拡張反応検査の一種。 両手の指先の爪の下の血管を15分ほど観察することにより、血管内皮細胞の働きを検知する。【 方 法 】
90例の肥満(BMI>27.5kg/m2 , WC>90cm)、および座りがちな生活スタイル(運動 80分/週)のアジア人男性(平均年齢43.6、レンジ30~60)に対して1日必要カロリーより400kcal少ない食事療法および中等度の運動をLV(<150分/週) あるいは HV(200~300分/週)(n=45 each)のいずれかを無作為に24週間処方した。75例の男性(83.3%)が試験を完了した。【 結 果 】
- 週間運動量はHV群 236±9分で、LV群105±9分より多かった。
- HV群はLV群よりIIEFスコアおよびテストステロンが有意に増加し、体重、WCおよび脂肪量が有意に減少した。すなわち、IIEFスコアが2.6±0.5points vs 1.8±0.5points、テストステロンが 2.06±0.46nmol/L vs 0.79±0.46nmol/L、体重が-5.9±0.7kg, -6.2% vs -2.9±0.7kg, -3.0% 、WCが-4.9±0.8cm, -4.9% vs -2.7±0.7cm, -2.5% および脂肪量が-4.7±1.0kg, -14.5% vs -1.1±0.8kg, -3.2%であった。
- IPSSおよびSF-36スコアおよびRHIの改善は、両群で同様であった。
【 結 論 】
中等度の大量のエアロビクス運動(週200分以上)は少量の運動より性機能、テストステロン、体重、WCおよび脂肪量を著明に改善する。【 原 著 】
J Sex Med. 2013 May 1. doi: 10.1111/jsm.12154.
Comparing Effects of Low- and High-Volume Moderate-Intensity Exercise on Sexual Function and Testosterone in Obese Men.
Khoo J, Tian HH, Tan B, Chew K, Ng CS, Leong D, Teo RC, Chen RY.
Department of Endocrinology, Changi General Hospital, Singapore, Singapore.続きを読む
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2型糖尿病男性の性機能およびQOLに対するテストステロン補充療法
2013年04月25日
【 目 的 】
2型糖尿病男性では性機能障害、特に勃起不全(ED)が多く認められる。性腺機能低下症の発現率も糖尿病男性では高く、低テストステロンが性機能障害と関連し、EDに対する経口療法の反応性を減じている。
長時間作用型テストステロンアンデカノエイト(TU)によるテストステロン補充療法の性機能、ムードおよびQOLに対する効果をプラセボと比較検討した。試験は30週間にわたって行い、さらに52週オープンラベルにてフォローした。【 方 法 】
対象として一般診療所の総テストステロン12nmol/L以下または遊離テストステロン250pmol/L以下の男性糖尿病患者211例をスリーニングした。 2型糖尿病および性腺機能低下男性199例にてニ重盲検プラセボ比較試験を行い、TU1000mgまたはプラセボを30週間投与し、さらに52週オープンラベルにてフォローした。
一次評価項目としてIIEFによる性機能の調査を行い、二次評価項目としてAMS、Hospital
Anxiety and Depression Scale、 および Global Efficacy Questionを用い、ムードおよび自己報告QOLの調査を行った。【 結 果 】
- テストステロン補充療法は6週後より有用性が認められ、30週後の評価で性機能の全ドメインを改善した(勃起機能, P=0.005; 性交満足度, P=0.015; 性欲, P=0.001; 全体的満足度, P=0.05; およびオーガズム, P=0.04)。
- AMSスコアの改善は抑うつのない男性有意であり(P=0.02)、ベースラインでの抑うつの存在は性機能および精神的スコアの反応の著明な減少と関連していた。
- 性機能の全反応は18カ月まで有意にな改善が続き勃起機能スコアがベースラインより4.31改善した。
- PDE5阻害剤使用の35例の小集団においてはニ重盲検フェースでは変化が認められなかったが、52週のオープンフェーズで勃起機能の改善が認められた。
- 治療が健康を改善したと感じたのは30週後TU群48%に対してプラセボ群17%で、オープンラベルによる治療後は70%に達した。
- 肥満が少ないおよび高齢の患者はテストステロン療法に対する反応が良好であった。
- 有意な有害事象はなかった。
【 結 論 】
TUはIIEFの全ドメインおよび患者報告QOLを改善し、52週のオープンラベルでの延長後さらに有意に改善した。 改善は肥満の無い患者および抑うつのない患者で顕著であった。【 原 著 】
J Sex Med. 2013 Apr 3. doi: 10.1111/jsm.12146.
Testosterone Replacement Therapy with Long-Acting Testosterone Undecanoate Improves Sexual Function and Quality-of-Life Parameters vs. Placebo in a Population of Men with Type 2 Diabetes.
Hackett G, Cole N, Bhartia M, Kennedy D, Raju J, Wilkinson P.
Good Hope Hospital, Sutton Coldfield, UK.続きを読む