塗り薬でホルモン補充するときのメリットとデメリットについて

 陰部への少量塗布をおすすめする理由について

メリット デメリット
塗り薬 1.最小限で効率的な補充ができる。
2.穏やかな作用、安心感。
3.天然型の男性ホルモンが補充できる。
4.女性ホルモンを局所投与できる。
1.作用のインパクトが弱い。
2.飲み薬と比べて塗るのが面倒。
3.まれに肌に合わない場合がある。
貼り薬  血中濃度を長時間にわたり維持できる。 1.見た目に格好が悪い。
2.発赤を起こして貼る場所を変える場合がある。
注射  血中へ直接補充するので 即効性があり、最も効果的。 1.自己注射がなく自ら補充出来ず、2~3週間毎の 通院が必要。
2.
侵襲的。
飲み薬  使用方法が親しみやすく、心理的な負担感が少ない。 1.天然型の性ホルモンでない。
2.補充が非効率になる。
3.肝臓の負担にともなうリスク。

 

性ホルモンの飲み薬

普通、お薬といえば飲み薬をイメージすると思います。飲み薬は、お薬として慣れ親しんだ剤型です。ところが、特に男性ホルモンのうち「テストステロン」の場合は、体内の血中へ回る前に肝臓で全て分解されてしまうので、テストステロンを飲んでも肝臓に負担をかけるだけで効果がありません。

ですから、性ホルモンを飲み薬にするときは、肝臓に分解されにくい化合物にします。そのため、飲み薬で性ホルモンの補充効果を出すには、肝臓で分解されてしまうロスを考えて、多めに服用せざるを得ません。かといって多量に服用すると、肝臓へ負担をかけてしまうジレンマに陥ります。近年は、例えば肝臓に負担をかけない内服の男性ホルモン製剤もありますが、本邦では承認されておらず、食事との相性などから日本人では血中濃度の上昇が安定しないという指摘もあります。

一方、女性ホルモン剤は飲み薬が一般的ですが、外用剤と比べると血栓症のリスクが指摘されています。

性ホルモンの注射

注射による性ホルモンの補充は、直接血中に性ホルモンを送り込むのでロスがなく、自ずと即効性が期待できます。

しかし、例えばテストステロンの場合、半減期は11~90分と言われており、どんどん肝臓で代謝されて尿に排出されてしまいます。かといって、毎日何度もテストステロンを注射をするのは現実的でありません。そのため、筋肉注射で約2~3週間テストステロンを高レベルに維持させます。近年、海外では3ヶ月間にわたり高過ぎない血中濃度を維持できる注射剤がリリースされていますが、本邦では承認されておらず、また健常男性にあるテストステロンの日内変動を無視したものになります。いずれにせよ、病院で受診してから、医師の管理のもとで行わなくてはなりません。

一方、女性ホルモン剤の中にはエストロゲンの注射剤もありますが、女性ホルモン剤は飲み薬が主流で、一般的でありません。

性ホルモンの外用剤(貼り薬・塗り薬)

「経皮吸収」 と呼ばれていますが、貼り薬や塗り薬にしますと、皮下の血管から性ホルモンが血液に入り、血中濃度が上昇します。この方法ですと、補充した性ホルモンが身体を巡り、各部へ作用した後に肝臓で分解されます。ですから、血中へ同じ量の性ホルモンを補充するなら、飲み薬より経皮吸収の方が少ない量で済みますし、同じ量を摂るなら、経皮吸収の方が自ずと肝臓の負担が少ない、と考えられます。

貼り薬は「細く、長く」成分を体内に補充できるので、適切な性ホルモンの血中濃度レベルを長時間にわたり一定に維持できます。ただし、人により貼った場所の皮膚が赤く脹れてしまうことがあります。

塗り薬は、毎日少しずつ塗ることで血中濃度を高過ぎない程度に性ホルモンの補充ができます。効果のインパクトは弱いものの少量投与が出来るので比較的高い安全性が期待され、塗る量や頻度を調節する自由度があることから、幅広い症状や用途に対応できるメリットがあります。

特に男性のテストステロン分泌には日内変動があり、通常は夜明け前から早朝にピークを迎え、午前中が高いと言われていますので、終日メリハリなく一定の血中濃度に高めるような男性ホルモンの補充は不自然です。その点、塗り薬であれば起床時に塗ることで日内変動を考慮した健常男性本来のテストステロンの補充ができます

一方、エストロゲン(女性ホルモン・卵胞ホルモン)の補充を低刺激なクリームで行うと、例えば閉経後の膣萎縮と乾燥にともなう炎症やかゆみ、性交痛の場合、局所的なホルモン補充ができます。少量ずつ外陰部に塗れば、全身的な血中濃度の上昇を軽微に抑えて元々分泌していた生理的な範囲内にしながら、塗布部の潤いを回復できるためです。

エストロゲンの補充では、特に子宮体がんの発症リスクが問題となります。そのリスクは、エストロゲンの投与量が多くなるほど、また連続投与が長期間になるほど、高リスクになると言われていますが、エストロゲンを軟膏やクリームで短期間だけ局所的に補充すれば、そのようなリスクを極めて低く抑えることが期待できます。

陰部への塗布をおすすめする理由について

効率良く補充するために、体中へ広く塗るに越したことはありませんが、出来ることなら塗る広さはなるべく少なくしたい、とお考えになりませんか?
男性の場合は陰嚢(いんのう)部、女性の場合は局部粘膜へ塗っていただくようにお薦めしている理由は、これらが、体の表面のなかで最も効率良く成分を吸収する部位のひとつだからです。例えば男性の場合、陰嚢部が大変吸収の良い場所であることが古くから知られており、腕の約40倍以上効率良く吸収するという報告がございます(下図参照・出典: Feldmann RJ. et al.: J Invest Dermatol Feb; 48(2): 181-3, 1967 )。

部位別経皮吸収量(Feldmann RJ. et al.: J Invest Dermatol Feb; 48(2): 181-3, 1967)

また、経皮吸収では皮膚の透過に個人差が現れることが懸念されますが、以上に申し上げた経皮吸収の良好な部位であれば、このような個人差が少なくなることも期待できます。

一方、女性におきましてもエストロゲンの膣内投与におけるメリットを示唆する研究が発表されています(Long CY, Menopause, 2006 Aug 28)。

海外では腕に塗る高用量なテストステロンの塗り薬(ジェル剤)がリリースされていますが、他者に触れる場所へ多量に塗るため、家族とのスキンシップをはじめ、塗布後に手指を拭いたタオルを通じて他者に皮膚上のテストステロンが移行し、米国では特に幼児への移行による早期成熟が問題となりました。陰部へ少しずつ塗ることには、このような問題を回避する意義もあると考えております。