男性の「朝だち」はどうして起きるのでしょう?
朝だちに何か意義があるのでしょうか?
その前に、健常な成人男性が睡眠中に勃起することをご存知でしょうか?
医学的には「夜間勃起現象(nocturnal penile tumescence; NPT)」と呼ばれていますが、「朝だち」は、夜間勃起現象の最終セッション。すなわち、朝だちのメカニズムは夜間勃起現象の一環と考えられます。
夜間勃起現象は、レム睡眠中の生理現象
夜間の睡眠には、「ノンレム睡眠(深い眠り)」と「レム睡眠(浅い眠り)」があります。通常は1セット約90分。二つの睡眠を交互に繰り返して、朝の目覚めを迎えると言われています。
「レム睡眠」のたびに勃起するのが「夜間勃起現象(nocturnal penile tumescence;NPT)」で、これは健常男性なら誰にでも有り得る生理現象です。 そして、最後のレム睡眠のタイミングで目覚めた時に勃起していると、その状態が「朝立ち」となるわけです。
レム睡眠中は、目がキョロキョロ動いているのが特徴。「体(手足の筋肉)は休んでいるが、頭は働いていている」状態なので、夢を見たり、夜中に目がさめてしまったり、ときには「金しばり」になるのもレム睡眠中と言われています。 レム睡眠中は自律神経の働きが活発になりますので、脈拍、呼吸、血圧などが不規則に変動したり、勃起が生じます。「夜中に目がさめたら勃起していた」という経験は、レム睡眠中の生理現象なのです。
脱線コラム
ちなみに「溜まった尿の刺激で勃起する」という話は俗説のようです。 尿意が勃起に全く関係しないとは言い切れないにしても、尿意を催す度に誰もがいつも勃起すると考えるのは無理があると思われます。 なお、女性もレム睡眠のたびにクリトリスが勃起する、という指摘があるようですが、科学的な事実を示す情報は入手できておりません。
夜間勃起は生殖機能を維持するための「試運転」
睡眠中の勃起や朝だちは、必ずしも性的な刺激や妄想によるものではなく、体が自動的に行う「試運転」と言えます。 何故そのような試運転が必要なのでしょうか?
筋肉は使わないと萎縮して行き、柔軟性を失います。骨折してギプスで固定した腕や脚は、後にギプスが取れた頃には筋肉が萎えて柔軟性も失っているので、いきなり全力で力を出したり運動することは出来ないものです。元のレベルまで筋肉を取り戻すには、リハビリやトレーニングが必要になりますし、急には戻らず、数週間~数ヶ月を要することになります。
勃起するにも様々な筋肉や海綿体などの組織が関係します。ところが、勃起しない期間が長くなるほど必要な筋肉が萎えて、いざ必要な時に勃起できなくなります。ED(勃起不全)になり何ヶ月、何年も経ち長期化するほど、治るまでに期間を要することになります。
たとえセックスレスでマスターベーションも行わず、性行為や性的刺激で勃起する機会がない男性であっても生殖機能を維持できるように、寝ているあいだ自動的に勃起を繰り返し行う試運転のプログラム。 これが夜間勃起現象の意義と言えましょう。
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第二次性徴前の男児も、性的刺激にかかわらず何かの折に勃起するものですが、以上に記した経緯から考えますと、男児にとっての勃起とは、将来の生殖機能を備えるためにプログラムされた自動運転によるトレーニングと考えられます。
自ずと、男性ホルモンの分泌が増える第二次性徴が現れる思春期はもとより、その前から規則正しい健康的な生活習慣・食生活・適度な運動・過度なストレスの回避と適切なストレスの解消が良好な睡眠につながり、日々しっかりと夜間勃起を繰り返しておくことが、将来の立派な性器の成長につながるのかも知れません。第二次性徴が終わり身体的な生育が終わってから男性ホルモンに期待しても、性器を自然に大きくすることは困難と思われます。
「朝だち」にはセルフチェックの意義がある
「朝だち」は夜間勃起現象の最終セッション。眠っている間に自身の勃起を自覚することが出来なくても、朝だちなら自ら確認できます。朝だちを確認することにはED(勃起不全)のみならず、近年の医学的な知見を踏まえると次の意義が考えられます。健康寿命を延伸するためにも、取り返しがつかない状況へ陥る前に向き合ってみてはいかがでしょうか。
1)ストレス・疲労を自覚するきっかけ
強いストレスや疲労状態、ひいては抑うつ状態にあると、人により性的な気分にさえなれない時もあると思います。良く眠れない人は睡眠のリズムも崩れていることが考えられます。朝だちが無いとき、そのような状態に自覚があれば、頑張り過ぎずに時間を作って休養してみてはいかがでしょうか。
2)男性更年期・LOH症候群を発見するきっかけ
朝だちが無く、あっても頻度が少なくなり、しかも次のような症状にいくつか自覚がある人は「男の更年期」を考慮してはいかがでしょうか。 特に男性ホルモンの分泌不足によるこれらの不定愁訴は「LOH症候群」と呼ばれています。 泌尿器科をはじめ、男性更年期外来、メンズヘルス外来の受診をお勧め致します。
「身体的症状」
疲労感や不眠、肩こりや頻尿など
「心理的な症状」
集中力が続かない、やる気が出ない、ネガティブな気分など
「性機能症状」
EDや性欲欠乏など
詳しくは「AMSスコア」問診票でセルフチェックをお試し下さい。
ご参考
当該問診票で27点以上となった人の約85%が、健常な日本人男性における遊離テストステロン正常値のボーダーライン(11.8pg/mL)を下回り、LOH症候群の可能性があるという報告があります。
原著 日本性機能学会雑誌:25(1) 57~60, 2010
男性更年期障害外来受診患者のaging males’ symptoms スコアと遊離型テストステロン値について
3)動脈硬化をともなう生活習慣病の重症化を防ぐきっかけ
生活習慣病に関連して良く言われる肥満、メタボリック・シンドローム、糖尿病、高血圧、高コレステロール、中性脂肪の増加、喫煙は、いずれも動脈硬化につながります。
動脈硬化が進むと、狭心症や心筋梗塞をはじめとする心血管疾患につながりますが、動脈硬化の初期段階にダメージを受けるのが陰茎であり、EDは自覚症状となります。
勃起するのに陰茎海綿体へ血流が流れ込むにも、動脈硬化で血管がふさがり血流が悪くなれば、自ずと十分な硬さに勃起できなくなるわけです。
健診で先述の生活習慣病に関連した異常がある人、あるいは異常レベルに近い人でも、深刻な自覚症状がないと「未だ大丈夫」と楽観したくなるかも知れません。
でも、朝だちの時に勃起の硬さが不十分になったと感じたら、それが「最後の警告」かも知れません。 糖尿病や高血圧が重症化したり、狭心症や心筋梗塞になってからでは、その後の人生がますます物入りとなり、不自由になるものです。 重症化して取り返しがつかなくなる前に、生活習慣の改善に向き合うことをお勧め致します。
何よりも、何歳になってもイザというとき十分に勃起する性機能を維持することは男としての余裕であり、尊厳と自信、ひいては社会的にも生涯現役で過ごせる心身につながると思われます。
加齢やストレスにともなう男性ホルモン(テストステロン)の分泌減少が、朝だちの頻度減少ひいてはEDの原因であれば、男性ホルモンの補充による回復が期待できます。
男性更年期の不定愁訴を主訴に泌尿器科を受診した場合は、検査結果から血中テストステロン値が低すぎると、注射剤やクリーム剤による男性ホルモンの補充を考慮されますが、EDが主訴であればPDE5阻害剤(バイアグラ・レビトラ・シアリス等)の投与が一般的です。
もし、医師を受診する前に男性ホルモンを補充して、調子が良ければ様子を見たい、ということであれば、第1類OTC医薬品であるテストステロンの塗り薬がございます。テストステロンの補充はPDE5阻害剤と併用できます。