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「ヨヒンビン」の由来
西部アフリカのドイツ植民地は、赤道の直下に位し、土民は酷熱に暴露するが故に、中には身体衰憊(すいはい)して満足に情慾を遂げ得ざるものもあるも、彼等は一種の霊薬を所有し、之を煎出し飲用して、よく情慾を遂ぐることも得るの風習あり。霊薬とは一種の樹皮にして、その名を「ヨヒンベヤ」と称す。
該樹皮は、淡きチョコレート様褐色を呈し、強固にして繊維と色素とに富む。 (オーベルワルト氏 ウィルヒョオ氏賓鑑1898年 第153巻)。 植物系統上、その所属に至りては未だ明かならず。 シューマン氏は之を丈竹桃科、殊に三友花種に属するものとなしたりも、研究の結果恐らく Rubiaceae に属するものとなし、ハルトウィツヒ氏も亦之に賛するものゝ如し。
ドクトル、スピーゲル氏はベルリン医科大学薬物学教室に於て、該樹皮を研究し、二種の薬品を析出せり。 一は白色にして効力強く、一は黄色にして効力薄弱なり。 甲を「ヨヒンビン」と称し、乙を「ヨヒンベニン」と称す。 スピーゲル氏の説によれば(化学新報1896年 第97号 薬学新報1897年 第674頁)「ヨヒンビン」は美麗なる絹糸様の光沢を放ち、純白色針状結晶にして、濃厚硫酸には無色に溶解し、重クロム酸カリウムの結晶を入るれば、美麗なる青紫色の辺縁を有する線を顕はし、漸次に汚穢緑色に変ず。濃厚硝酸に溶解せしむれば、目前に無色に溶解するも、直に深黄色に変じ、之を温むるも色を変ずることなし。 ナトロン滷汁を以て飽和せしむるときは、橙黄色を呈し、エルドマン氏試薬に対して暗青黒色を呈し、直に緑色、次で黄褐色に変ず。 「ヨヒンビン」は234度、その塩酸塩類は287度に於て熔融す。 アルコール、エーテル、クロロホルムに溶け、ベンゼンに僅に溶解し、石油エーテルに全く溶くることなし。 この塩基は、稀薄アルコール溶液より針状に結晶し、その塩酸塩類も濃厚水溶液中より顕微鏡的針状結晶に析出す。 純粋「ヨヒンビン」は光線及空気に触れて変化し黄色となるも、塩酸「ヨヒンビン」は、乾燥状態に於て永久変ずることない。 医薬用としては、塩酸「ヨヒンビン」を勝れりとす。
「ヨヒンビン」の治療的効果
本剤の身体に及ぼす作用に就きては、ベルリン医科大学教室に於て、博士ラングガールト及びオーベワルト二氏の、冷血及び温血動物に対する研究、博士レェヴィー氏がベルリン高等農学校動物生理学研究室に於て、特にその生殖器に及ぼす作用の研究あり。 次でベルリン医科大学精神病学教授メンデル氏は、之を人体に応用し、その成績を1900年「現今の治療学」に公にしたり、爾来本剤は、盛に陰萎患者に使用せられ、卓絶なる効果を認めらるゝに至れり。
「ヨヒンビン」の生殖器神経に作用して、陰萎を治するの効用に就き、欧米諸大家より、科学的研究を施し、その成績を公にせるもの、既に四千有余、其の実験患者数も甚だしく多数なり。今是等の論文より綜合的批評を下せば、次の如し。
本剤は、重症麻痺陰萎、老衰性陰萎、精神的陰萎、神経衰弱性陰萎、衰弱性射精早漏等の諸症によく効を奏す。 勃起作用は頗る徐々に発するものにして、6乃至10時にして軽度の勃起作用を呈す。
摂取すること五六日なるとき、勃起並に射精の二力漸次に快復し来り、続きて之を連用するときは、多くは二三週にして強き勃起を発し、交接を行ひ得るに至る。
本邦に於ける医家実験報告中、東京医科大学に於ける、大野医学士の実験報告及往年本剤製造元の日本に於ける代表者ファベルウンドフォーグトか本剤を提供し施療的実験を依頼したるドクトル加藤時次郎氏の報告は最も詳細を盡せるを以て巻尾に登載せり。
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