PADAMの代表的な治療方法のひとつに、男性ホルモン補充療法(ART)があります。ARTを行う際には、これまで本邦では高用量な注射剤が一般的でした。ところが、近年はQOLに対する社会的なニーズが高まり、患者が使いやすく、マイルドな作用で、しかも長期的な連続使用においても安全性の懸念が少ない、次世代のART用の薬剤が多くの臨床医から望まれていました。
すでに海外では、肝障害のリスクが少ない経口剤や、あるいは経皮吸収の外用剤として、パッチ剤、塗布剤が各種リリースされており、次世代の注射剤も話題となっていますが、これらの薬剤は国内で承認されておらず、また有用性についても議論の余地があると思われました。
そこで、国内で臨床に使える薬剤を当研究グループで広く検索した結果、OTC(一般用医薬品)として昭和40年に旧厚生省に承認され、大東製薬工業が製造販売しているテストステロン軟膏剤「グローミン」を見出し、ART用の薬剤として適切かどうかを検討するに至りました。
検討の結果、「グローミン」を塗布して約1時間後をピークに血中のフリーテストステロン値が確実に上昇し、かつ異常な高値には至らず、朝晩2回の塗布で健常男性が有する男性ホルモン分泌の日内変動に近いプロファイルになることから、生理的範囲内でのホルモン補充を実現できることがわかりました。
さらに、男性ホルモンが低下しており、PADAM症状を訴える患者50例(平均年齢55.5±9.8歳、34〜81歳)を対象に、十分なインフォームドコンセントのもと「グローミン」を用いて12週間のARTを実施したところ、AMSスコアやIIEF5において、有意な改善を認めました。
副作用は、排尿障害2名、脂漏性湿疹1名など、ごく軽度のもので重篤なものはなく、肝機能障害やPSAの上昇は認められませんでした。長期間投与した場合の副作用は現在観察中ですが、軟膏塗布後の血中テストステロンのピーク値が生理的な正常範囲を逸脱しないことから、危惧されるような問題はないと考えられます。
テストステロン軟膏共同研究グループ
聖マリアンナ医科大学
泌尿器科学:1、 予防医学:2、
代謝・内分泌内科学:3、 薬理学:4
岩本晃明1、馬場克幸1、
中澤龍斗1、 中目真理子1、
吉田勝美2、杉森裕樹2、田中利明2、
方波見卓行3、田中政巳4
長野赤十字病院・泌尿器科:5
天野俊康5、竹前克朗5
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なお、本剤の有効性を評価するにあたり、プラセボ群を設けたRCTを実施していませんが、RCTによらない薬剤有効性評価の妥当性につきましても、当研究グループの考え方を述べたいと思います。
少なくとも、現在施行されているテストステロンの注射剤より安全であると言え、次世代のARTとして期待できる薬剤が、本邦に既にあることがわかりました。